結局これにしてしまう。

天使の歌声が聞こえる食べものに出会ったことがあります。

ふわふわとは
こういうことだろう

とにかくふわふわしている。大きな声を出したら、原型がなくなるのではないかと思うほどやわらかい。アルファベット文字が型押しされた楕円形の皮。その中には艶があるカスタードクリームがたっぷりと挟まり、ショーケースにお行儀よく並んでいる。それだけでもう、キューリである。

敵にも味方にも
これを持って行く

ちょっと親しい友人宅を訪問するとき。あるいは都会のスイーツを食べまくっている奴を威嚇してやりたいとき、最適な洋菓子だろう。それはそれは丁寧に詰めてくださる箱は、決して今風ではない普通の紙箱。それすら一周回って美しく、このお菓子の飾らない上品さを誇張する。

 京都御所の近く、竹屋町通烏丸を西へすぐ。ラッパみたいな飾り看板と洒落たランプが目を引く「欧風堂」。1957年創業のこちらの洋菓子店の名物が、このワッフルだ。口当たりがあまりにかるいので、ひとくち食べれば天使の歌声が聞こえてくる、という人もいる。

一度に焼けるのは18個。
昼までに売り切れも。

 メレンゲをふんだんに使った生地は、創業から変わらぬ独自のレシピ。徹頭徹尾、手作業にこだわる。ワッフル型を並べたガス火の鉄板の上で、店主の両腕が軽やかに踊る。焼き上がった生地を裏返すその指先は、練達のピアニストのようだ。

 一度に焼けるのは、わずか18枚。ゆえに一日に作れる量には限りがある。昼を待たずに完売することも珍しくない。これが京都人の定番「おもたせ」なのかと聞かれるとわからない。しかし、「おもたせ」の失敗を恐れる京都人は、結局これにしてしまう。


洋菓子の欧風堂 
京都市中京区竹屋町通烏丸西入ル亀屋町150
075-221-2022
10:00〜19:00
日曜休日(不定休あり)
https://ofudo-kyoto.jp/

※ワッフルは数に限りがあるため、事前予約を。

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在の営業時間は18:30まで。

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