もうこれしか食べたくない。

君だって、そうだろう?

禅問答のようなパン

 京都人はパンを愛する。抹茶と和菓子ばかり消費しそうな京都市は、意外にもパン消費量では全国で1、2。市内には星の数ほどパン屋がひしめく。誰しもご贔屓のパン屋があり、お気に入りのパンがある。「どれが一番おいしいか?」などという質問は野暮の極みなので、なるべく控えていただきたい。しかし、「どれが一番シンプルか?」と尋ねられたのならば、「やっぱり、コレでしょう」ということになる。それは「ツノパン」、または「塩パン」とも呼ばれる。京都のパンの始原であり、定番。どこにでもありそうで、ここにしかない。あたかも禅問答のようなパンなのだ。

巨大なフランスパンに刮目せよ

 桜並木で知られる「哲学の道」にほど近い白川通の一角。店の入り口に飾られた看板代わりの巨大フランスパンが目を引く。1947年の創業の「ヤマダベーカリー」。こちらで「ツノパン」「塩パン」と親しまれているのが、「ヴェノア」である。素朴な味わいに、しっかりとした小麦の風味が香る。小さなツノのようなかわいい見た目。しかし、食べればすぐ分かる、サックリ、もっちりとした硬派な味わい。特筆したいのは、塩加減だ。「ほどよい」という概念は、この塩加減がルーツなのかと思うくらい、ちょうどいいしょっぱさ。この1本にフランスパンのエッセンスが凝縮されている。威風堂々、キューリである。

京都が生んだエスプリ

 「ヴェノアとフランスパンは、同じ材料から作ります。言うたら、スナック感覚のフランスパンですね」と話すのはヤマダベーカリーの三代目。創業者である祖父は、京都市内の別のパン屋で工場長を務めていた。フランス帰りの社長に「向こうで食べたパンを作れ」と言われ、独学でフランスパンを焼き上げたという傑物である。「外はバリバリ、中身はギュッと詰まっている。京都のフランスパンは、本国フランスのレシピとはちょっと違うんです」。無添加にこだわるレシピは創業当時から変わらず、今も忠実にその味を守り続ける。

 京都で生まれたヤマダべーカリーのフランスパン。そのエスプリを引き継ぐ「ヴェノア」は、京都のパンのアルファであり、オメガである。


ヤマダベーカリー
京都市左京区浄土寺下馬場町87
075-771-5743
https://yamadabakery.jp/

・ヴェノア100円(税別) 

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