「一汁無菜」のススメ。

 和食の基本は「一汁三菜」といわれる。汁物におかず三品という献立は、しかしなかなかに手間がかかる。ステイホームでゆとりが増えたと言っても、毎度の食事にそれだけ時間をかけるのは、正直しんどい。そんな気分もあってか、最近では「一汁一菜」が人気という。いやいや、冷蔵庫の残り物を片っ端から鍋に入れ、味噌を溶くだけでもいいじゃないか。「一汁無菜」だって、自分で作れば立派な食事だ。ただし、この場合、味噌のクオリティがとても重要になる。

白みそ派も赤だし派も、
うならせる味噌。

 京都では白みそが有名だ。正月の雑煮を筆頭に、てっぱい、西京漬けと、京都の美味なる料理には欠かせない。しかし、京都の人間だって年がら年中、白みその味噌汁をすすっているわけではない。家庭料理となれば、米こうじ味噌の出番である。

 西陣のど真ん中。大きな味噌樽をゴロンと横にして、中に入り込んで樽を洗う職人がいる。昔ながらの手作りを続ける京都市上京区の「加藤みそ」は、そこらの味噌とは一味も二味も違う。白みそ派も赤だし派も麦みそ派も、誰をもうならせる極上の味噌が生まれる場所だ。パッケージはまったく普通。一切こだわっていない。こだわるのは味噌の味だけだ。

小うるさい蘊蓄は不要。

 創業は1917(大正6)年。京都・西陣に味噌蔵を構え、百年を超えて味噌をつくり続ける。故あって若干20歳で跡を継いだ4代目を筆頭に、家族経営で味噌づくりに励む。今では名だたる料亭もこの店の味噌を使用する。

 自家製の板麹と、国産大豆、国産米を原料に、一年かけてしっかりと熟成。米の甘みと豆の風味が生きた極上の味わいは、京都の料亭でも使われる逸品だ。4代目におすすめの食べ方を尋ねると「難しいこと考えんと、味噌汁にしたら一番ええですよ。とにかくおいしい味噌汁ができますよ」。代々の伝統を受け継ぎながらも、どこか飄々としたこの精神こそキューリなのだ。小うるさい蘊蓄は不要である。

その一椀に、愛情を。

 おいしい味噌汁は、まぎれもなくごちそうだ。この春からひとり暮らし、という人もいるだろう。新社会人にとって、慣れない毎日は緊張の連続、くたくたで帰宅して自炊なんてとても……という時もある。そんな時は、冷蔵庫の残り物を片っ端から鍋に入れ、加藤みそを溶くだけでいい。手づくり ほっこり 愛情一椀。「味噌汁が、ここまでうまいのか」と、感動する。加藤みその手作りの信条が、しみじみと心にしみるに違いない。


加藤商店
京都市上京区猪熊通出水上ル蛭子町400
075-441-2642
https://katomiso.raku-uru.jp/

・加藤みそ「天風」500g 756円(税込)

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