鴨川こそ、京都の中心。(という独断)

京都の地図をじっくりと眺めれば、誰にだって分かるはずだ。

 京都の中心を通るのは、千本通でも堀川通でも、まして烏丸通でも河原町通でもない。断固それは、鴨川である。水源である北山の山中を始まりとして、悠久の昔からほとんど変わることなく、地図の上を「Y」(ここは「イグレック」と読んでもらいたい)の字に流れ行く鴨川こそ、京都の中心を貫く一本の道である。嗚呼、千年の都を潤す鴨川の流れよ永遠に……。たとえ独りよがりと後ろ指をさされようとも、京都を偏愛する人たちを魅了してやまない鴨川。その深淵なるランドスケープを、そっくりそのまま写し取ったような1枚の布があるのをご存知か。

始まりの「山」から、風景は広がって

 「Le Montagne(レ・モンターニュ)」、フランス語で「山」と名付けられたテキスタイル。寺町通りの一角に店を構える「petit à petit(プティ・タ・プティ)」 が、一番最初に手がけた絵柄の布である。橋の上に立ち、鴨川のはるか上流に位置する北山の峰を眺めた時の景色。それを、いくつかの紙片を貼り合わせて表現したコラージュ作品から「山」は生まれた。

 幾重にも重なり合った山々と、その間に広がる余白としての鴨川。山が主体で鴨川が客体なのか、はたまた鴨川が主体で山が客体なのかー、そんな狭量な議論は不要である。足元を通り抜けて行く鴨川の流れが途切れないように、テキスタイルから溢れ出るイメージもまた、どこまでも広がっていく。

 「故郷の山に見える」という人から、「これはモンブランだ』という人まで。1枚のテキスタイルが、見る人それぞれの記憶と重なり、また違った風景へとつながっていく。忘れかけていた懐かしい感情を、静かに揺り動かされるこの感覚が、清々しいまでにキューリである。

「花の都」パリと「千年の都」京都。ちょうどいいミックス加減。 

 紙を使ったコラージュの質感を再現する独特の布地は、イラストとテキスタイル印刷、それぞれ独自の世界観と技を持つ2人が手がけている。

 パリをこよなく愛するあまり39回も渡仏したイラストレーターと、面相筆による友禅染の型作りからマッキントッシュを使ったパリコレのオートクチュールまで、幅広い仕事で活躍してきたテキスタイルプリンティング・ディレクター。小学校からの同級生という2人の偶然の再会から「petit à petit(プティ・タ・プティ)」は生まれた。「山」から始まり、少しずつ少しずつ作り上げてきた絵柄の数は、今や約20種類。「鳥」や「竹」、「喫茶店」や「本」など絵柄の一つ一つに、京都の景色とパリのエスプリが絶妙に混じり合った物語が詰まっている。お気に入りの本のページをめくるように、それぞれのテキスタイルから始まるストーリーをゆっくりと紐解きたい。


petit à petit(プティ・タ・プティ)
京都市中京区寺町通夷川上ル藤木町32
075-746-5921
https://petit-a-petit.shop/

・「山」(Le Montagne/レ・モンターニュ)ハンカチ 1,848円(税込)

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