芸術家が関わると、すごいことになる。巡礼のデイトリップ

森に残る「古代の遺跡」

 始まりは1枚の写真だった。森の中に屹立する、苔むした石造りの柱が写っていた。柱は四角く、アラベスクに似た模様が刻まれている。「鳥居」だというそれは、写真の中でさえあまりに独創的な存在感を放っていた。ほとんど古代の遺跡である。「なんだこれは?」気になり出したら止まらない。かくして、小さな旅が始まる。京都の街の真ん中から自転車で片道1時間ほど、ささやかなデイトリップにいざ出発。

白昼夢を駆ける

漕ぎ出した自転車は鴨川と並走する川端通を南へと下り、師団街道に入る。手元のスマートフォンの賢しらなナビゲーションに従いながら、高速道路の高架をくぐり抜けて、貨物トラックやダンプカーに混じりながら坂道を登るために必死でペダルを踏む。「梅雨の晴れ間、と呼ぶには日差しが強すぎやしないか」と自分で自分に問いかけているうち、唐突に「目的地に到着しました、案内を終了します」という声。京都市伏見区深草の大岩神社、その参道は道路のすぐ側から始まっていた。

それは、そこにあった

参道入り口に建つ鳥居はごく平凡な朱塗のものである。脇の案内書によれば、参道を登った山の上に神社があり、その途中に例の鳥居があるという。「よし、行こう」迷うことのない一本道を進むと、すぐに竹林の中を通り、やがて静かな池に出る。道は山道となって、尚も先へと続いている。頭上に生い茂った樹々の隙間から差し込む光と、細い滝が落ちる水音に誘われて進むうち、写真で見たあの鳥居が忽然と現れた。間違いない、これだ。これこそ、京都が生んだ偉大なる芸術家、堂本印象による独創的すぎる鳥居である。

具現化された神秘

 印象の鳥居は、2本の四角い石柱に屋根のようなものが乗っている。柱には植物のような模様、左右それぞれに地蔵と毘沙門天をモチーフとした像が刻まれている。上部にはウサギと鳥、さらに「大岩大神・小岩大神」という文字を囲うように位置する2人の女神。東洋的であり西洋的な、抽象表現ならではの神秘さを感じさせる。異世界の趣すら漂うこの存在感が、圧倒的にキューリである。

 滝の水音と時折聞こえる鳥のさえずりのほかに、静寂を破るものはない。自分の心臓の音まで聞こえてくるような、不思議な時間が流れていく。1962年の建立からおよそ60年。数々の宗教画を手がけた印象ならではの祈りの形は、今も静かにそこにある。

大岩神社には堂本印象による鳥居が大小2基ある。
山頂にある大岩山展望所からは京都南部を一望できる。
参道は倒木などで荒れ気味の箇所も多い。散策の際はしっかりとした靴で、安全には十分注意を。


大岩神社の堂本印象の鳥居
京都府京都市伏見区深草向ケ原町89-2

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