チーズケーキをめぐる口福論的考察(あるいは、おいしい記憶についてのあれこれ)

ないものねだりは人の世の常

 ナチュラルとかオーガニックとか、そんな装飾的な形容詞で「自然」というオーラをまとい、「無垢」を演出するモノは多い。ないものねだりは人の世の常。現代人の生活に不足しがちな「自然」と「無垢」が人気を集めるのも、無理からぬ話である。かくして「自然」は商業主義的用語に堕落した……かのように思われた今日、ここにひとつの本来的自然が存在していることを発見する。それも、チーズケーキという形式で。「自然とはチーズケーキである」。これが一つ目のテーゼである。

超越論的な、美味しさの秘密

 それはチーズケーキであるが、いわゆる「チーズ」を使っていない。材料となるのはフランス産クリームチーズである。濃厚でありながら爽やかな風味のクリームチーズをふんだんに使い、オーブンで焼き上げたベイクドチーズケーキなのだ。さらに、サワークリームをベースとしたソースが乗っかることで、軽やかさと力強さを兼ね備えた絶妙のコクを実現している。

 何より特筆すべきは、これら全てに溶け込んでいる皮ごと絞った果汁100%みかんの風味だ。ひと口食べると、太陽の恵みを凝縮したような生命力がほとばしる。太陽、海、風、土、水…。頬張ったみかんチーズケーキはヒトの五感を解き放ち、記憶の内に残された自然を思い出させる。チーズケーキでありながらチーズケーキを超えたこの味が、まさに超越論的にキューリである。そうして、2つ目のテーゼが見出される。「自然とはヒトの内に残る記憶である」

パティシエールの哲学

 みかんチーズケーキは、ふとした縁から生まれた。瀬戸内の海と自然を慈しみ、約40年前から有機栽培みかんを育てている愛媛の「無茶々園」。そして、素材本来の持ち味を余すことなく引き出し、さらなる独創性で唯一無二のケーキを作り上げるパティシェールがたまたま京都で出会い、この美味なるチーズケーキを生み出した。食べ終えたそばから、いくつだって食べたくなる。どこか懐かしいその味はパティシエールの哲学に基づいている。

 「ケーキを食べるという、人生の少しの時間を幸せにできるように。人の記憶に残るようなケーキを作りたいんです」。かくして3つ目のテーゼが確立される。「自然とは幸福の記憶である」

すべてを証明する手紙

 焼き上げたチーズケーキの数だけ、食べる人たちの出会いがあり、人生に訪れる出来事がある。そんな人生のひとときに、そっと寄り添う存在でありたいと願って。素材を生み出す自然への感謝を胸に、我が子を育てるように丁寧に作られたチーズケーキは、食べるひとの心に暖かな記憶を残す。

 厨房に飾られた一枚の手紙は、チーズケーキに自己の全てを投入するパティシエールが見つけた、永遠の目的である。全てのテーゼを、ひらがなだけで綴られたその言葉たちが証明している。

 このチーズケーキこそ、ひと皿の幸福である。


京都ベイクドチーズケーキドットコム

京都市北区上賀茂畔勝町45-1

075-741-8712

https://www.baked-cheesecake.com/

・みかんチーズケーキ box size  2,556円(税込)

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