ツウの味、ここに極まる。

 近頃はコンビニにだって色々なスイーツが並んでいる。インスタ映えだかなんだか知らないが、青や緑やピンクのデコレーションが賑々しいスイーツたち。刹那的な享楽に浸るのもいいが、そんなものは、本当に美味しいスイーツの前では無力だ。甘雨のように穏やかに、口から入ったその甘さが体と心に染み入るようなあまいもの。求めているのは、そういうことだ。しみじみと甘さを楽しむ時間さえも味わいたい。そういう人のための、とっておきの甘味が京都にある。

大人のための、甘味。

 銀閣寺のほど近くにある「哲学の道」は、疏水沿いの桜並木で知られる。薄紅色の桜が彩る春は大勢の人出で賑わうが、夏の終わりのこの時期は思いがけず静かだ。哲学の道から南へと伸びる「鹿ヶ谷通」を少し下ると、「名物 豆かん」と書かれた看板が見える。暖簾をくぐり一歩入った店内は、木張りの床に、高い背もたれの木製椅子、年代物のレジスター。「落ち着いた雰囲気」という型通りの言葉が、その本来の意味を取り戻すような心地よい空間が広がっている。

お品書きの「豆かん」に添えられた一文がふるっている。「寒天、赤えんどう豆に黒みつをかけた通の味」。つまりはこの「豆かん」が、「通(ツウ)」である大人のための、とっておきの甘味である。

三位一体の喜び

 寒天、赤えんどう豆、黒みつ。器の中にあるのは、ただそれだけだ。よくもまぁこの3品だけで、これだけ強い味覚を残せるものよ。その飾り気のなさ、この質朴こそ「豆かん」が「通の味」たる所以である。

黒みつのかかった赤えんどう豆は、艶やかな輝きを放っている。それをひと匙すくって、口へと運ぶ。黒みつの香りは芳醇で、その甘味は清らかに澄んでいる。寒天はなめらかに、赤えんどう豆はざくざくとした歯応えが小気味良く、ほのかに感じる塩気が絶妙。さらに甘味を引き立てる。三位一体が織り成す、完全なる調和。その奥深さを味わうひとときに、次第に心がほぐれていく。舌が喜び、心が喜ぶこの時間こそ、「違いの分かる」大人のための休息だろう。沁み入るほどにキューリである。

不易流行を知る、大人の言葉

開店以来、20年余り。㐂み家の「豆かん」は、美味しさを求めた先に行き着いた極上の材料を用いて、手間暇を惜しまず作り上げる。「良い材料で、丁寧に手作りする。それだけのことです」。さらりと語る女将の言葉は、本物を知る大人だからこそ。流行りすたりを追いかけているだけでは見えない世界が、そこにある。


㐂み家

京都市左京区浄土寺上南田町37-1

075-761-4127

http://www.kimiya-kyoto.com/

・豆かん  650円(税込)

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